Gothic 制作裏話 前編(ネタバレなし)

ゴシック、お楽しみいただけましたでしょうか。個人製作なので多少なりとも粗のある内容ではあったかと思いますが、思っていたよりずっと多くの反響を頂いており、制作した甲斐があったなあとおもうばかりです。

制作にあたってどんなことがあったかという事跡を残す意味で、裏話を公開します。謎解きに限らず、自作コンテンツを作ってみたい!という方には参考になるかもしれません。

なお、前編の内容はネタバレなしです。

後編は2022/9/30 17:00 に公開予定です。後編の内容はネタバレを含みますので、パスワードロックをかけています。

パスワードは Final question の答え、ファーストネームだけを半角英小文字で入力ください。

ストーリーの裏話

商業、同人問わず世の中に存在する多くの謎解きは、謎解きと言うからには謎がメインコンテンツです。ストーリーはそれに少し味付けするおまけのようなもので、そもそもストーリーに期待して謎解きをするという人自体それほどいないのかもしれません。

ただ私個人としては、やっぱりストーリーの作りが軽すぎると、その流れで謎解きをしなきゃいけないのはちょっとわからない、ということを感じ取ってしまうタチなので(これは以前も書いたことですが)、しっかりとしたストーリーの上に謎解きを乗せたい、という願望がありました。

そこで本作品では、背景ストーリーにかなりの重きを置いています。

フェイチャター

作中に登場する読めない文字、言語はフェイチャターと言います。人と話さなくなって喋り方を忘れてしまった人が、掠れた声で囁くように喋る言葉、というのが着想です。話者がそのような人に限られるため、喉を傷めないよう有声音を弾いています。フェイチャターというのはFae(妖精)+chatter(囁き)という意味の造語です。

このためだけにフォント自体を一から作成しました。需要があれば配布もできますが、まあ使わないでしょう。そもそも21文字(だっけ?)しかないし。遊びで欲しい方は個人的にコンタクトください。

後編ではストーリーについてより踏み込んだお話も記載しています。

謎の裏話

小謎の全回収は可能かという話

以前にも当サイトで述べましたが、ただ答えを提示させるだけの謎は本来代替可能です。ということで今作はほとんど全ての謎を何らかの形で再利用しています(一部浮いているのもありますが)。

そうなると答えの方から逆算していくような形で謎を作らなければならないのですが、答えが先に決まっていて、その答えになるような謎解きを作らなければいけない、というのは実は結構ハードルが高いです。無理に回収しようとして謎が歪になるよりは、一問一問完成度の高いものを置いておく方がきれいに見えるかもしれません。

作問分担

小謎2問を除いて全部自分で作りました。最近は謎解きの作問ができる人は結構いるので、外注など協力体制があると楽に作れると思います。

今回は謎解きの作問をやっていてそういう依頼を気軽に出せるほど仲がいい方が思い当たらなかったのですが、もし次回があるとしたら作問依頼も出してみたいですね。#gothic_nazoでタグツイートしておいてもらえると、私の目に留まった時にお願いすることがあるかもしれません。

後編では個別の謎解きについてより踏み込んだ話を記載しています。

イラストの裏話

外に依頼するにも枚数が多すぎて、自分で描けるし描けばいいな、と思ってほとんどのイラストは自力で描きました。ですが本当に苦行です。もしこの作品を見て「なるほど全部一人でもできるんだ!」と思った方がいらっしゃいましたら、悪いことは言わないからやめておけとしか言いようがないです。一人で描くメリットは、せいぜい「完全に想像通りのアウトプットにできる」ということぐらいです。

金銭的な問題が全くなく、何か一つ選んで全部外部に丸投げできるとしたら、まず間違いなくイラストを全部外に発注しますね。

真エンディングのスチル

イラスト1枚だけ、外部に依頼を出しました(クリアしないと見られませんが)。Bon appetit! artworks 1 狐籍歎語帖 でも依頼を出したことがあって、求めていたイラストのテイストを出してくれそうな方ということで、るあさんにお願いしました。お忙しい中丁寧に対応頂いて感謝しかないです。

ラフ確認後にスカートのフリルを忘れていたことに気が付いて、あとから足してもらうようにお願いしました。私は自分でも絵を描くのでよーく知っているのですが、絵師さんに後出しでフリルの依頼を出すと、多くの場合絵師さんが死にます(笑)。やめましょう(これはマジで反省しています。すいませんでした)。

イラスト依頼の相場って?

個人の感覚に因るので何とも言えません(ここで変なこと書いて炎上しても困るし)。よくわからなかったら何らかの仲介サイトを通して依頼するのが無難でしょう。

私は絵師さんに直接コンタクトを取って依頼していますが、相手にいくらだと言われてもポンと出せるような絵を描いていただけそうな関係の方にしかお願いしていません。ごくまれに無償で描いていただける仏のような絵師様もいらっしゃいますが、最初からそれをあてにして依頼を出すのは言うまでもなくご法度です。

システムの裏話

きれいなコード<動くコード

私はハードコーディングがキライなので、どんなコードもできるだけ可変性、拡張性があるように書きたくなります。ですが、二度と使い回さないような箇所をハードコーディングしないようにするというのは時間の無駄です。時には割り切りも必要ですね。

デザインなんかはできるだけCSSで書くようにしていますが、どうでもいい部分はインラインスタイルを書いていたりもします。

謎の答えをソースに直書きしないために

この項目はweb謎の解析という反則的な技に関するコンテンツですので、プログラミングに詳しくない方は閲覧しないことをお勧めします。

Spoiler

「ソース閲覧は禁止です」と書くのはいいものの、ソースを書いている側からすると、「こんなんソース見られたらマジで一発なんだよな」、というお悩み、あると思います。Javascript 使いは常にその問題に直面しています。

難読化は可能ですが、最近のブラウザは平易なコードに直すのはワンクリックでできてしまいますし、答えを暗号化したところで結局答えを変数としてソースに書いていることには変わりないので、平文化可能なアルゴリズムであれば直されてしまいます。これらはかなり悪意のある方法ではありますが、大会なんかに使用する謎を作りたいのにそういったコードしか書けないのは問題があります。

簡単に解析されないためには、phpなどサーバーサイドで動作するファイルとのやり取りを嚙ませる必要があります。

phpファイルはサーバーで処理してそのアウトプットのみを返すため、相手が相当ぶっ飛んだ技術の持ち主でなければ、そこに書いた内容を読み取られることはありません。自前のサーバーかレンタルサーバーがあるなら、phpをインストールしてやるとこの辺のモヤモヤがだいぶ解消します。

デバッグの裏話

デバッグは絶対に他人にお願いすべきです。謎自体成立していない可能性もありますし、システムが壊れている(先に進めなくなるバグなど)こともあります。一人で作っていると想定の解き方、動かし方があるので自然とそれに沿って操作しますが、他の人が見た時にそれをどう扱ってくれるかはわかりません。実際今回もデバッグでかなりのバグや謎解きの修正箇所が見つかりました。

スケジューリングの裏話

自分で決めた仕事にはこれといって期限がない

そもそも一人で思いついて一人で作ろうとしたものなので、何かのイベントに出すだとか、この日に間に合わせたいとかそういったことは一切予定にありませんでした。なので期限に追われて作業をするといったことはしばらくの間はなかったです。ただ、今思えばそれが良くなかったですね。

Bon appetit! artworks 1作目の「狐籍歎語帖」を作った際は、片手では数えきれないほど多くの人を巻き込みつつ着想から完成までわずか2ヶ月という超特急での完成を見ています。

あの時の熱量があれば、今回の企画も3~4ヶ月程度でなんとかなるだろう。そう思っていました。

実際のスケジュールはこんな感じです。

2021/10~11頃着想この段階ではまだ「こんなのできたらいいな」のメモ書きレベル
2021/12末Bon appetit! artworks HP開設
2022/1本格的に制作を決定して取り掛かる遅くとも夏までには完成させようと思っている
2022/2ストーリー完成、要件定義自分用なので定義というほどちゃんとしてない
2022/2システム構築開始
2022/3ソースに謎の答えを直書きしないためにphpを勉強する手を付けるのが遅いのよ。
2022/4Faechatter のフォントを作成そのための自作フォント作成の勉強含む
2022/5上謎が(ほぼ)全部完成この時点では6月末までに完成させる気でいる
2022/5下キービジュアル完成
2022/6謎の差し替えとストーリーの大幅な書き直しをする
2022/6末イラストを1枚だけ外注ここで事実上のタイムリミットが発生する
2022/7末イラスト納品ありがとうございました!
2022/8残りのイラストを全部描く(10枚ぐらい)普通のイラストならともかく、退廃的で鬱なイラストばかりだったので辛かった。
2022/9/5システム構築完了空き時間にちょっとずつやってたので結局ここに半年もかかっている
2022/9/10最終デバッグ(とりあえず好評だったので安堵する)
2022/9/11レスポンシブデザインを作成ここでやっとスマホに完全に対応する。PCで開発していると結構これが面倒
2022/9/12Twitter上で告知
2022/9/13細部の表示を調整、完成実際は昨日の時点で完成のつもりだったけど細部が気になったので手を加えた
2022/9/15公開

ふざけてんのか???

正直最初の方はだいぶだらだらと作業していました。作業ができる時間でも、やれウマ娘だ、やれFall guysだ、なんか色々遊んでいた気がします。まあ全く遊ばないというのも健全じゃない気がするのでそれはそれで分けて遊べばいいのですが、それにしても無駄な時間が多すぎたなと思います。

ターニングポイントは6月、ストーリーと謎の整合性が取れないことにどうも納得がいかず、総入れ替えをしています。誰かがツイッターで言っていた気がするのですが、こだわり倒して完成しないよりは多少歪でも完成させた方がえらい、というのはよく言われる話です。同人なら許されますが、商業ではこんなこと絶対にできません。私はどうしてもこだわりをもって納得のいくものしか出したくないので、商業はできないタチなんですよね。

さすがにこれでは一生完成しないと焦りが生じ、自分に期限を課すために見切り発車でイラストを外注することを決めます。この時点で必要なイラストの残り枚数を考えたら何枚か発注したいところではあったのですが、そんなにお金が有り余っているというわけでもないですし、画風とかのこともあるので結局出したのは一番重要な最後の一枚だけ。残りは自分で描くことにしました(もともとそのつもりではあったのですが、計画の段階でこれほど時間的余裕がないとわかっていたらまた別な結論を出していたかもしれません)。

最終デバッグの日程も本当は一週間前に抑えていたのですが、その日は無限に Fall guys に興じていた気がします。だれかこいつなんとかしてくれ。

口だけなら何とでも言える、完成させたやつが一番えらい

これだけだらだらと先延ばしを繰り返しながらも、ちゃんと完成まで行ったというのは事実です。こんなスケジュールを立てる(スケジュールを立てていない?)人間がそんなことできるとは到底思えないのですが、それは単純に私の根底に、一度始めたことは責任をもって完結させるという意志だけは確実に存在するからだと思っています。

これは私個人の経験から来るものです。今までどれだけの口約束が反故にされてきたか。今までどれほどの合同企画がキャンセルされてきたか。そのような軽薄なことに掛ける時間は、それが完成した時と比べれば単純に無駄。自分の時間、他人の時間を無駄遣いしているだけなのです。

限りある時間、意味のあることに使ったと思いたい。そんな動機で日々の創作に励んでいます。

主張(言い訳)

これ作りながら仕事もしながらブログ更新してたのまあまあすごくないですか???

最後に

Web謎自作を支援するWebサービスとかもでき始めてるので、こんな手の込んだことをわざわざやりたいなんて思う方はごく一握りでしょうが、「制作についてどういう風に考えればいいの?」とか、「これってどうやって実装したの?」とか、もしも自分で似たようなことをやる上で気になることがある方はこっそりtwitterとかで聞いていただければお答えします。ぜひ今後の参考になれば。

後編では、ストーリー上の裏設定やら謎の難易度調整やら、踏み込んだ内容をお話しします。