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あけましておめでとうございます。
やれハロウィンだやれクリスマスだ、とすっかり西洋文化のお祭りに迎合する日本人も、元旦になれば我に返ったかのようにしっかり和の心を思い出して神社にお参り、食事だっておせちにお雑煮と和食三昧。
和柄のグッズが多く目につくのもこの季節ならではと思います。どの柄も魅力的ですが、中でもコミカルなかわいらしさがある、鳥獣戯画の柄をたまに見ますよね。うさぎと蛙が追いかけっこしてるようなアレです。
Bon appetit! artworks 1 狐籍歎語帖にも、鳥獣戯画の意匠を取り入れたページがありました。
鳥獣戯画、鳥獣人物戯画は京都の高山寺に伝わる、甲乙丙丁の全四巻からなる墨絵巻です。全四巻のうち甲、丙の両巻の一部は東京国立博物館の常設展に展示されています。
一日ではとても回りきれないほどの所蔵品がありながらも、著者作者も分からなければ時代背景も分からないものがばかりが並ぶ国立博物館。そんな中、名前だけでも見聞きしたことがあるものを見かけると立ち止まって見てしまうのは私だけではないはず。
もう何年も前の話になりますが、そんな国立博物館に遊びに行った折、鳥獣戯画のスペースで立ち止まっていると、後ろから突然、しかし人を驚かせることのない、落ち着いた声色で私に話しかけてくる方がありました。
「鳥獣戯画のほとんどには猫がいないんですよ。どうしてだかご存知ですか?」
鳥獣戯画に猫がいないのはなぜか
鳥獣戯画にはどんな動物が描かれているか? 目の前に大きな実物があるにも関わらず私はそこまで注意深く見ていなかったので、それは言われて初めて気が付くような事実でした。
そもそも、鳥獣戯画が成立した時期の日本に猫がいなかったかと言われると、全くそんなことはありません。諸説ありますが、猫が初めて日本にやって来たのは飛鳥時代から平安初期とされています。鳥獣戯画は平安末期から鎌倉初期の作品とされていますので、猫が特別な動物であったということもないはずです。
ではなぜ猫が描かれなかったかというと、仏教が大きな力を持っていた当時の時代背景が関係していると思われます。
一時期の仏教における猫の扱いはかなり悲惨なもので、釈迦の入滅(にゅうめつ。釈迦や高僧の死を表す言葉)を描いた涅槃図に50種類を超える動物が集っているにもかかわらず、そこに猫が描かれていないことからもそのことが伺い知れます。
鳥獣戯画は墨絵の手習いの手本となる文献であったと言われています。そのためよく絵の題材になる動物たちは網羅されているのですが、仏教に関わる絵にはほとんど描かれることがなく、干支のように暦絡みで登場することもない猫は描く必要がなかったと思われます。その証拠に鳥獣戯画とその関連の絵には干支に顔を出すほとんどの動物(空想上の動物も含め)が登場しますが、猫はほとんど描かれていないのです。
「意識しながら見てみると面白いものです。是非色々見てみてくださいね」
その紳士はにこやかにそう言うと、さっと上品に手を挙げて立ち去っていきました。その方が学芸員でもなんでもなく一般の来館者の一人だったと気付いた時には、もうその方はあの国立博物館独特の荘厳な空気に再び溶け込んで、別な絵画を眺めておられました。猫が居ない本当の理由は諸説あるため、話の真偽は今でも不明のままですが、文化を愛する人の懐の深さを思い知った、印象深い出来事を今でも時折思い出します。
普段なかなか会う機会のない身内とも久々にあったりなんかして、どうしても年の流れを意識する年初め、歳を取るならあんな風に……と思うのでした。皆様も、どうぞ一年健やかに。
本記事の内容は独自研究を含むため、真偽についての保証は致しませんことをご了承ください。