11月発売の「ビブリオワンダース!」をもって、2024年内に出る予定だった作品はすべてリリースが完了しました。今年も短かったです。
ここでは今年の創作活動を振り返って、良かった点や反省点を見ていきたいと思います。
割と一人語りですが、作品を楽しんでいただけた方には裏話としてお楽しみいただける内容になるかなと思います。また、自分と同じような創作をしている方に少しでも伝えられることがあればうれしいです。
Contents
Ad Nauseam(2024.4.1 リリース)
本作のタイトルの意味を調べた人も結構いるんじゃないかと思っているのですが、Ad Nauseamとは「吐き気を催す」「うんざりする」といった意味のラテン語です。少し気取った言い回しではありますが、英語でも普通に使う表現です。
スパムや広告など日々のうんざりするようなあるあるを、少しでも面白いものに昇華できないか、という思い付きで作成しました。これで日々のクソ広告を見る目も少し変わっtなわけねえだろ滅べクソスパム共め。
Gothic、神佑と違って、急にストーリー性0でイージーな謎解きをリリースしたので、作風の振れ幅に困惑した人、クリア自体を疑ってしまう(完全クリアがないか探してしまう)人、いろんな反応が見られてまあ面白かったです。
◎パロディ、ブラックユーモアは一定のウケが担保される(ただし取扱注意)
本作のフィードバックとしては(直接は受け取っていないものの)基本的には好感触でした。結構癖の強いネタを料理しましたが、ネタとしてはあまりニッチ過ぎず「あるある系」を扱ったので、ネタとしての認知度が高かったのはひとつ大事だったかなと思います。キービジュアルも何とは言わないですが認知度が高い元ネタですしね。
◎難易度調整は上手くいってそう
私個人としてはこのレベルの謎解きだとかなり簡単かなと思いながら作りました。また今回に関してはそれだけでなく、公開直後からヒントと解答を全て公開したので、ヒント集を見ることにためらいさえなければ誰でもクリアまで到達できる仕様になっていました。
結局誰しもクリアって言いたいのは間違いないし、クリア報告がSNSでたくさん流れれば流れるほど広告効果も大きくなるので、現金なやり方ではあるのですがこのスタイルが雑にウケがいいしこちらとしてもお得、と言えそうです。
頭ではわかっていてもこうやって実証したのは初めてですし、謎解きを作る側としてどうなんだと思わないこともないですが、その辺は割り切っていこうと思っています。
◎モバイルレイアウト固定でも問題ない
今回初の試みがこれで、Webアプリは往々にしてモバイルレスポンシブ仕様の実装に悩まされるのですが、メインのターゲット層がほとんどモバイルユーザーであるという事情を鑑み、今回は潔く諦めてすべてモバイルレイアウトで表示させることにしました。
でも別に誰も困ってなかったです。
私はデスクトップ環境で見ることが多いので苦手ではあるのですが、逆に言うと自分がギリ許せるなら多分大多数の人にとっては何の問題もないということでもあります。今後のレスポンシブ対応はそれくらいの感覚でやればいいのかなと思っています。縦長のレイアウト、いつまで経っても慣れないですが……。
△クソ広告を自分で作る虚無感はやばい
いいことばかり並べてきましたが、ぶっちゃけこれを作るのは本当につまらなかったです。謎としては面白いかもしれないけど、話としてはどこにも盛り上がる要素がないわけで……。何より、普段から嫌っているものを自分の手で作るのがこんなに摩耗する作業だとは思いませんでしたね。
リリース時のツイートがなんだか塩……だったのも、この辺に理由があります。あとはどうにでもなれ~、のつもりで放流したら結構ウケてたので、それが救いでしたね。ああ、自分の考える面白さ、今回は間違ってなかったな、と思えた瞬間でした。
6_23=10(2024.6.23 リリース)
思い出深きわんど氏の名作、6_23のオマージュ作品です。これこそ本当に思い付きで、上手くはまってしまったので急ピッチで作りました。
正直に言うと、かなり反省点の多い作品で、実際にプレイして面白いかどうかとは関係なく、開発としては失敗だったと言わざるを得ません。理由は概ね以下の事実に集約されます。
×SNSで広まらない
まあ、これがほぼ全てだろうと思います。もっと細かい要素に分解すると……
△検索性がよくない、タグがつけられない
これは後からわかったことなのですが、”6_23=10″という文字列は(特にtwitterの検索フォームにおいて)イコールなどの記号が特別な意味を持ってしまうためそのまま検索するのが難しく、また”#6_23=10″でタグ登録もできません。
△サムネイル画像のSNSでの表示が悪い
この時期はまだサムネイルの画像のアスペクト比について正しい知識を持ち合わせていなかったというのもありますが、せっかくきれいな画像なのにSNSでシェアすると上下が切れてしまう、というのはちょっといただけないですね。
△宇宙謎の人気のなさに勝てない
そして、宇宙謎はクリア報告が上がりづらいジャンルである、というのもこれに拍車をかけるでしょう。
宇宙謎はいわゆる「初見バイバイ」系なので、それなりの話題性と「解いてみたい」という欲求を起こさせられないと、せっかく作ったのに誰にも解いてもらえない、という現象が起こりやすいです。大きな団体がやるならまだしも、個人レベルでこれをやるのは結構な勝算がないと苦しい。
私は他にもいろいろ作っていてそっちが遊ばれているのでまだいいのですが、もし初めて作った作品がこれだったら……心折れますよね。これからこういう創作をやってみたいと思っている人は、その作品が初見バイバイになっていないかどうか、本当に気を付けてください。
△本リリース日に重大なバグを出した
具体的にどこが……というのは伏せておきます(修正済みなので)が、クリアできたりできなかったりするバグがあって十全に楽しめるとは言えない状態でした。本リリースの時にこれをやるのは致命的なので、今後はもっと丁寧にリリース前デバッグをやろうと思いました。
ビブリオワンダース!(2024.11.16 リリース)
神佑に引き続きコラボ作品第2弾で、今回はボードゲーム兼謎解きとして実際に製品の形で発売することになりました。
コラボなので言えること言えないこと色々ありますが、これについては学びも反省点も本当に多くて、総じて言うと間違いなくやってよかったと言える作品なので、語れる範囲で残しておきたいと思います。反省点を列挙するのでやや厳しい評価が並びますが、これらはどれも一面だけを見た評価に過ぎないので、総合的な評価とは必ずしも関係していません。
△手段が先行したゲーム開発
これは今まで作ってきた作品に関わる、結構大掛かりな話です。
シロさんとの出会いはそれこそ去年のゲームマーケットだったので、当然ボドゲ絡みの縁です。しかしながらこのコラボが始まった時点で、何を作るかというのは完全に白紙でした。(自分でこんなこと言うのもアレですが)「互いにあまりにも何でも出来過ぎる」ということで興味を持っていただいたので、別にボドゲでなくてもやろうと思えばやりたいこと何でもできそうじゃない? というテンションだったのです。敢えてここに書くことはしませんが、本当にいろんな案がありました。
普段レビュアーの私としては折角なので、やはりボドゲ絡みで何かやってみたいところ。そこでなんとなく昔から思っていたことで、「謎解き一体型のボードゲームをちゃんと作ってみたい」、という話を出したのです。
結果としてこの案が通ってビブリオワンダース!は完成したのですが、これは私が普段やっている創作とはかなり違う手順を踏んでいます。
Gothic、神佑の2作を例にとると、元々「こういう物語を描いて、みんなに追体験してもらいたい」というのがスタートにあります。そして、ただ話を書いて個人運営しているサイトにアップするだけではインパクトが弱すぎる、何か遊べる仕掛けを入れられないか、というので謎解きに落とす、という流れを踏んでいます。
厳密には個々の作品によって流れは若干違うので、完全に上のパターンの通りかというとそうではないのですが、とにかく私の創作開発のパターンとしては、謎解きというのは体験の手段であって、それ自体目的になるものではありませんでした(これは神佑の制作後記でも多少書いたことですね)。
ところが今回は、「謎解き一体型のボードゲームを作る」が一番最初に決まってしまったのです――それを自分が納得できる作品に仕上げるための算段が、何もない状態で。
そうなると私としては、謎解き一体型のボードゲームに上手く噛み合うような話を、ゼロから書かなければなりません。これは初めてのチャレンジでした。
事実として、9月上旬の段階ではストーリーと謎解きの骨格があらかた確定していたのですが、私の納得のいくような出来にはまるでなっていませんでした。製品版としてリリースしたものはここから一回ストーリーを完全に書き直して、自分が納得のいくレベルに持っていったものです(これができたのは天啓が降りてきたからと言う外なく、もしこの天啓がなかったら……というのは考えたくもないです)。最終的には胸を張って「私がやりました」と言えるようなものにはなっている、ということだけ書き添えておきます。
ただ、こうやって天啓に頼った作品作りをしているので、安定した出力が出ない。だから私はこれを仕事にすることはできない……とはずっと思っています。
△プロデューサーが複数人いることのメリットが明確でないなら1人でいい
ボードゲームに限らずですが、通常複数人が集まってなんらかのモノ作りをするときというのは分業になります。大まかな方向性を決める人がいて、イラストを手掛ける人がいて、デザイン周りをやる人がいて、みたいな感じです。
今回のメンバーは自分とWhite Worksのシロさんの2人。どちらも、この全ての作業を一人で完結させられるタイプのオールラウンダーです(イラストの描く描けないとかはありますが、要は適切な依頼先があればイラストを「供給する」という点についてはクリアできるので同じことです)。なので、作業分担とかは特に決めなかったんですね。一つのことに対して、互いの案を持ち込んでブラッシュアップして決める、を繰り返して完成に持っていくという流れで進めました。
ただ結論から言うと(これはあくまで私の感想ですが)、物事の方向性を決める人が複数人いるというのはあまりよくなかったかもしれません。制作に関わっている全員がたまたま同じ方向を同じ熱量で向いているなら良いのですが、ほとんどの場合は各個人が考える「及第点の出来」というのは違ってきます。そういう時に誰に合わせるべきかというのを決めておかないと、正しく正解の方向にもっていくための改善策が見えてこないんですね。
最終的に、ゲームデザインに関しては細かい部分の調整はWhite Worksさんに一任しました。最終的に販売に携わっていただくのはWhite Worksさんなので、そちらが納得のいく出来のものでなければ十分な熱意をもって売れないと思ったからです。
逆にデザインに関しては(たぶん)私の方がこだわりが強かったので、全て引き受ける形にしました。
△結局、ゲムマに来る人ってボドゲがしたいんじゃない?
今作において、謎解きとボドゲの関係性には対称性がありませんでした。謎解き×ボドゲというコンセプトは、どちらかと言うと謎解きをやる人に向けてのものです(使い終わったキットに意味を持たせるという試み)。ボドゲをやる人にとっては正直なくても全く困りません。
なので、完全に後知恵ですが、これはどちらかというと謎解きをやる人に対して売るべきものだったように思います(そもそも私は制作に関してはボドゲより謎解きの方をを向いてる人間ですしね)。ボードゲームを探しに来た人が、これを買うためのきっかけ、あるいは最後の一押しの要因として、謎解きが遊べることをはたして挙げるでしょうか?(シロさんの売り方が上手かったのか、ぶっちゃけ現地ではそこそこいたようではあるのですが、別にそれが本命ではなかったと想像します)
しかし、そう思うと2,500円+送料は一般的な謎解きキットとしては高いと言わざるを得ません(※最終的には通販で3,300円=ギリギリ許容、と思っていたのですが、通販委託サイトの手数料が上に乗ったことで許せない数字になってしまっています……)。これは私の感覚ですが、せめて2,000円に抑えたいと感じます。もちろんボドゲにしてみれば大した値段ではないのですが、ターゲティングと製品の構造が色々ちぐはぐだったかもな、と少し反省しています。
個人的には、これは改善点でもあり、今後の挑戦でもあると捉えています。そもそも「ジャンルを跨いで趣味を広げたい人の最初の一歩を後押ししてあげる」というのは、かなり私のやりたいことなのです。このサイトの成り立ち、存在意義というのも大部分がそこにあります。
なのでこれに関しては、今回のやり方が悪かったから次はやらない、ではなく、このやり方に正当性を持たせる工夫をしよう、としたいところです。
私は売り場には立ちません
ビブリオワンダース!そのものの評価とは関係のない話ですが。
これはコラボのごく最初の段階で既に決まっていたことで、私の方からお願いしました。ゲムマで売るものを作るが、私は当日の販売には関与したくないので全て委任します、と。こんな条件を快く引き受けてくださったWhite Worksさんには感謝しかありません。
陰キャの極みみたいなことを言っていますが、「自作に触れてもらうときにそれを作った人の顔を想像してほしくない」というのは別に私に限った話ではないと思います。このスタンスは今後も変えるつもりはありません。
ありがたいことに私の周囲には「じゃあ私売り場に立とうか?」とか「売り子はやってみたい」とか(冗談?本気?)言ってくれる人が結構いるのですが、私は即売会に関してはこういうスタンスなので、もしまた何か出すことがあったらマジでお願いするかもしれません。ちなみに可能性は「ほとんどありえない」です。よろしくお願いします。
◎ゲームとしては本当に面白かった
最後になりますが、良いことも書き添えておきましょう。これが本当に予想を超えていた部分です。
自宅ボドゲ会で友人に(自分が作ったとは一切言わずに)出したところ本当に大ウケして、頼んでもないのに「もう一回」が聞けただけでなく、その場で手元から一個売る羽目になりました。うそでしょ。
目にするたびに何らかの感慨を抱くような、手元に残るモノを作った今回(全く初めてではないですが、これだけ大規模なものは初です)。これについてポジティブな気持ちを持てたことは今後の創作意欲に強く結び付く、そう思います。
2025年以降の予定 – 新しい物語が、待っている
ここからは未来のお話です。
ビブリオワンダース!の項で触れましたが、そもそもの私の制作活動の動機は、「こういう物語を描いて、みんなに追体験してもらいたい」―そういうところにあります。
私がお届けしたい次の物語は、もう着々と準備されています。何せ今年リソース不足で手を付けられなかったストーリー型作品の制作が、既に何本も動き出しているのですから!
今までの作品からの学びや皆様のフィードバックで、120%いいものを作れるという確信があります。来年、皆様にお届けできるように頑張りたいと思います!