今回紹介するのは少し前のスタンダードで一瞬話題になった、グリクシス(青黒赤)シンギュラリティ(碑出告シュート)デッキです。
Contents
概要
前口上が長いのでさっさとデッキリスト見せてよって人はここまで飛ばしてください。
実態は中速コンボデッキですが、必殺技の殺意が非常に高いです。ここ数年のスタンダードで言うと、
- カスケードクエスト(《木苺の使い魔》《アラーラへの侵攻》のアレ)
- スゥルタイ根本原理
- ジェスカイ変容
など、キーカードを通せばガチャガチャやった末に全部粉々にしてくれるタイプのデッキが好きな人には特におすすめ!
堕落
ETBでブレスト、死亡誘発で踏み倒しとライフロスを放つ《碑出告と開璃》というカード自体の性能が好きです。ちょうどこのデッキが環境に登場した頃、スタンダードで少しの間運用していました。
当時のリストはこちら(これは私のリストではありません)。
しかし時を待たずして《鏡割りの寓話》が禁止に。
デッキ自体はとても面白いと思っていたので、しばらくはなんとか代わりのカードを入れて運用できないかと粘っていました。しかしやはり《鏡割りの寓話》が抜けた穴は大きく、もう一線級のデッキにはならないかなという印象。何より、3色も使って安定性を犠牲にしているにもかかわらず、スタンダードに大量に同居するエンチャント類に触れない青黒赤というカラーリングそのものが下火なのです。働けボーラス。
ちなみに私が当時頑張って組んだ結果がこれです↓
デッキがやりたいことは、以下の4つ。
- 序盤を適度に耐えつつマナをしっかり伸ばし、手札を整える
- 5マナのクリーチャーを通す
- 踏み倒すマナ総量の大きなインスタントかソーサリーを積み込む
- ついでにそのインスタントかソーサリーが十分なインパクトを持つ程度に強い
このうち3と4は《爆発的特異性》《多元宇宙の突破》の枠で担えるので良かったのですが、1がどうしようもなかったわけです。5マナ出るまで妨害を撃ち続けて、手札にちゃんと必要なカードが残るなんてそんな虫のいい話はありません。もっと言うと《碑出告と開璃》は土地を明確なハズレ枠として扱うので、土地の枚数はあまり過剰にできないのです。無茶言うなよ。
《鏡割りの寓話》があった頃はそんな無茶苦茶が実現していたのですが……。
そんなこんなでしばらくこのデッキはMTGArenaのデッキ束に埋もれていました。たまに友人と指名対戦するときに、好きなカードを使いたくて取り出して遊ぶ程度が関の山だったのです。
発見
最後にこのデッキを調整したのはエルドレインの森環境。ケランくんが実のお父さんを追って旅する間、このデッキはストレージでずっと放置されていたわけです。
転機はまさにその指名対戦で訪れました。
「あれ……なんかこのカードめちゃくちゃ相性良くね?」
カルロフ邸殺人事件より、青赤のドロー&全体火力《間の悪い爆発》です。
2枚ルーターしながら全体火力を放ち盤面をリセットするこのカードは、まさにこのデッキのやりたいことに合致しています。もっと言うと全体火力の点数は「捨てたカードのマナ総量の最大値」ですから、マナ総量を稼ぎたいこのデッキには120%フィットします。
多少重いながらもただの2ドローとしても扱える柔軟性もあり、4マナなので赤単や白単相手にも何とか間に合うのも素晴らしいです。全体除去を撃ちたいターンの目安が4ターン目であるというのは、直近のプロツアーで《集団失踪》が《太陽降下》の代わりに増やされていた構築の版図ランプが優勝していたことからも見て取れます。
調査
このカードの発見により一気に光明が差したため、急遽デッキの綿密な調整を行うことに。サンダージャンクションで対抗色ファストランドが収録されたことでマナベースも安定し、2マナ~5マナまでタップインせずに繋げることも比較的容易になってきたのもこのデッキのパワーを上げるのに大きく貢献しました。
最後の不満はやはり《碑出告と開璃》も《間の悪い爆発》もないときに《爆発的特異性》のような踏み倒し対象のスペルが手札で腐ることでした。
生撃ちできる可能性を高めるために低マナ域のクリーチャーも取って普通のミッドレンジにする構築も考えましたが……
これはやはり一貫性がなく、《碑出告と開璃》の実質ハズレ枠を増やすだけなので却下。というかそういうミッドレンジを組みたいなら今はエスパーの方が強いです。
ではいっそ《爆発的特異性》は抜いてしまって、《多元宇宙の突破》に全て任せてしえばどうでしょうか。しばらくはこれで満足していました。《爆発的特異性》は1枚挿しのたまに出る大当たりにしておいて、テキトーなスペルをお試し枠で入れ替えて遊んでいました。
そしてその残る一枠に何気なく突っ込んだある一枚が、このデッキを完成させる最後の欠けたピースだったのです。
デッキリスト
その欠けたピースとは《押し出し//引き抜き》。
まずこのカードのマナ総量は8です(詳しくは総合ルールを読んでね)。ということで《碑出告と開璃》でめくれれば8点ライフロス、《間の悪い爆発》で捨てれば全体8点火力です。
にもかかわらず、分割カードなので序盤に引いても最低限の確定除去として腐らない機能を有するため、初手キープの安定性が格段に上がります。
そしてこのカードの一番すごいところは《碑出告と開璃》で踏み倒した時に起きること。
- 対戦相手は8点ライフロス、踏み倒しは《引き抜き》側でキャストし、自分の墓地から今落ちたばかりの《碑出告と開璃》を対象に取ります。《碑出告と開璃》は戦場に戻り、ETBが再度誘発します。
- 《引き抜き》の効果の続きで、次の終了ステップの開始時に《碑出告と開璃》を生け贄に捧げます。《碑出告と開璃》のPIGが再度誘発し、もう一枚何らかのカードを踏み倒しつつライフロスを放ちます。
相手が回復手段のないデッキの場合、《碑出告と開璃》が着地したが最後、攻撃5点+《押し出し//引き抜き》8点+もう1枚でさらに8点 or《多元宇宙の突破》7点、と繋がれば、たった1ターンで20点削りきれます。
何ならこれは軽いケースで、実際には
- 《引き抜き》で《碑出告と開璃》《黙示録、シェオルドレッド》を戻す→ついでに3枚引いているので6点回復
- 《引き抜き》で《碑出告と開璃》を2枚戻す→片方がレジェンドルールで自壊、《渦巻く知識》2回の後に踏み倒し&ライフロスが2回誘発→もう1枚《引き抜き》か《多元宇宙の突破》を積めればまた誘発する(!!)
とめちゃくちゃなことになります。
墓地に《碑出告と開璃》が落ちていて《引き抜き》が生撃ちできるなら踏み倒す必要もなくコンボが始動するため、ある程度墓地が肥えている状態では「6マナで通れば勝ちのソーサリー」です。これがあることで《間の悪い爆発》で虎の子のクリーチャーを捨ててしまっても大して問題にならないというメリットもあります。4マナで全体5点火力を撃ってるのにコンボの下準備が同時に進んでいる、と考えれば凄まじいシナジーだということがわかるでしょう。
また相手の墓地から2枚引き抜く選択肢があるというのも融通が利きます。相手のアトラクサを戻してリソース補充に使わせてもらいつつライフゲインするケースは少なくありません。
ということで《碑出告と開璃》《間の悪い爆発》《押し出し//引き抜き》は文句なしの4枚ずつ採用に至ったのでした。
採用カード
《衝動》
2マナで4枚見られるので、序盤の相手のアクションに対する対策を探すのに役立ちます。土地2~4枚+《衝動》1枚あればほぼ無条件キープできるため、さりげないですが非常に重要なパーツです。4枚。
《保安官を撃て》《長い別れ》
念のため1枚ずつ入れています。《喉首狙い》2枚より、《喉首狙い》1枚+《保安官を撃て》or《長い別れ》1枚の方が嬉しい状況がほとんどなので、散らさない意味を探す方が難しいと思っています。
《死人に口無し》
5マナの全体除去は重く、全体除去の役割のためにはそう何枚も取れないのですが、池の水全部抜く効果が多くの場面で刺さるため1枚採用しています。コンボデッキなので「相手の手札を確認する」という行動がかなり重要なためです。
《多元宇宙の突破》
墓地からのリアニメイトで《碑出告と開璃》を戻せるのでほぼ当たり前に採用されるカードなのですが、枚数は2枚に絞っています。理由は以下の3つ。
- 初手に必要ない。
- 生撃ちできるようになるまでが若干遅く不安。
- 《押し出し//引き抜き》を4枚も入れているので追加の踏み倒し枠がそんなに必要ない。
下準備なしにコンボスタートできる可能性もあるのですが、やはり7マナが重いです。またどちらかを選べるなら《碑出告と開璃》をただ出すだけよりそのターン中に自壊させられる方が強いので、どちらが良いかと言われるとやや《引き抜き》に軍配が上がると思います。
《天上都市、大田原》
そんなデッキはほとんど見かけたことがありませんが《真昼の決闘》に触れるカードがないので、保険として採用しています。実際はいろんなものを戻す機会がありますが、あまり出番はないです。普通に土地として置いていいと思います。
不採用カード
《爆発的特異性》:上でも説明しましたが、生撃ちできないため。あと《押し出し//引き抜き》では21点以上のライフですら沈められるケースがあるのに対し、こちらではきっかり20点のダメージしか与えられないという事情もあり、採用する理由がなくなりました。
《精神の氾濫》:踏み倒しても何も起こらないため(X=支払ったマナの点数なので)。青系の中速以下のデッキで不採用になるのは珍しいですが、デッキの性質上どうしようもありません。
《三歩先》:マナ総量が小さすぎ&踏み倒しても何も起こらないため。
各種ミシュラランド:タップインが1ターン目ぐらいしか許容できなかったため。またそもそも起動するタイミング自体がほとんどない。とはいえ《ザンダーの居室》と入れ替えた時に安定性が損なわれないなら変えるのはアリ。これは試していない。
《魂の洞窟》:白青コン相手にこれで無理やり通すプランも考えたが、踏み倒したスペルには普通に打ち消しが当たるのであまり意味がなかった。安定性が落ちるので要らない。指定「オーガ」とか言うと相手がすごい顔をします。
小技たち
能力のスタック順
《碑出告と開璃》は戦場に出したいし死亡してほしいので、1枚目が戦場にあるうちから2枚目を重ねて唱えるのはこのデッキにおいてはもはや常識です。これをやるとETBとPIGが両方スタックに乗るので、必ずETBを先に解決するようにスタックに積みます。ライブラリーを積み込んでから即座にめくることができるので非常にお得です。
追放除去をケアする
《碑出告と開璃》はあくまで死亡時誘発なので、追放除去には弱いです。版図ランプの《力線の束縛》《太陽降下》は長いこと天敵でした(今でもそうです)。
対処法としては、2マナ浮かせて唱えて自分のスペルで壊す、が基本になります。《喉首狙い》など2マナのインスタント除去はそのための除去でもあります。白単の《軍備放棄》なんかはこれで対処できます。
が、《力線の束縛》は瞬速持ちなので、上から被せてくることもあるでしょう。
最高の対策は《かき消し》です。
版図ランプは基本的に《力線の束縛》を1マナで唱えてくるので追加マナは簡単に支払われてしまいそうですが、ここでやりたいのは《碑出告と開璃》を犠牲のコストに充ててしまうこと。追加コストの支払いはスタックに乗らないので、相手が《かき消し》をどうしようが、こちらのPIGの誘発までは約束されるというわけです。《めでたしめでたし》。
《太陽降下》に対しても同じように《かき消し》を撃つのですが、この時に相手が追加コストを払った場合、踏み倒したスペルによって戦場に出たクリーチャーは《太陽降下》が解決されるタイミングで結局追放されてしまいます。
この場合、将来の《引き抜き》のバリューを確保するために、《引き抜き》は相手の墓地からアトラクサを釣ることで我慢するというプレイングが必要なこともあります(アトラクサを墓地から釣るのが「我慢」って何?と聞かれたら《唸る狼》になることしかできません)。「碑出告もういないのかよ、じゃあ意味ないじゃん」と勘違いして大人しく打ち消されてくれるパターンもあるので、その時は自分の墓地から釣ってゲームを畳みましょう。
4マナ浮きの《告別》はさすがにどうにもならないのですが、最近は数を減らしているのでそこまで気になりません。そもそも墓地一掃されたところで劇的に効くわけではないので問題ないです。
《戦慄の遁走》入れた方がいいですよ
これはイニストラード:真紅の契りで登場したハンデス呪文です。
今のスタンダードって2マナ域までに全くアクションをしない≒割と明白な死なので、2マナ以下の呪文はほぼマストですよね。じゃあ《強迫》より対象の広いこっちの方がいいじゃん、というわけで採用に至りました。
素晴らしいのはみんな大嫌い《大洞窟のコウモリ》《精鋭射手団の目立ちたがり》を先手を打って抜けること。後半することなければ切除でなんでも抜けるハンデスにもなります。黒を使うなら入れておいて損はないはず。
vsメタゲーム(BO1)
赤単
基本的には除去を構え続けるだけです。赤単の猛攻に耐えられるだけの枚数の除去は有しているので、相手がブン回れば負け、そうでなければ勝ち、というだけです。こう書くと運ゲーっぽいですが、除去の枚数が十分なためかなり有利が取れます。
ただし主なゴールは《黙示録、シェオルドレッド》の定着ではなく、相手の攻撃の手が緩んだところでこちらも《碑出告と開璃》をメインに相手のライフを削りに行くことです。のんびりしてると本体火力で焼き切られてしまいますので、相手が投了しない場合どこかでちゃんと攻めに転じる必要があります(当たり前ですが)。
ボロス召集
全体除去を7枚も積んでいるので、並ぶたびに流すことを繰り返すだけです。《かき消し》《死人に口無し》は速攻を付与してくる《イモデーンの徴募兵》へ。相手がちょっと足を止めた隙を見逃さずに《碑出告と開璃》を投下してワンショットキルを狙います。
赤単の点による攻めも、ボロスの面による攻めも、どちらもしっかり対応できるのがこのデッキのいいところです。赤系デッキに悩まされている方はぜひ。
白単
基本はボロス召集と同じですが、《軍備放棄》だけは忘れずにケアしましょう。
版図ランプ
ロングゲームになると向こうに分があるように思えますが、ずっと言われていたように版図ランプはアトラクサが出たターンに勝てるわけではなく、メインには打ち消しも持たないので、落ち着いて進めれば全く問題ないです。むしろそのターン中に勝負を決められるコンボを搭載しているこっちの方が有利なくらいです。
ただし《碑出告と開璃》は追放除去を受けると帰ってこられないので、必ずインスタントタイミングで壊せる7マナ+除去or《かき消し》が揃ってから出す必要があります。
エスパーミッドレンジ
打ち消しを構えつつインスタントタイミングで戦力を追加してくるデッキなので、どうしても押され気味になります。とはいえ《碑出告と開璃》を軸に据えるのは変わりません。エスパーの追放除去は《放浪皇》か《冥途灯りの行進》ということを意識しておけば何とかなります。
《敬虔な信者、デニック》で《引き抜き》が止まってしまうことには注意が必要です。《多元宇宙の突破》なら対象を取らないので貫通します。
アゾリウスコントロール
キーアクションが大振りなので、コントロールにいいように捌かれてしまいます。除去も適正ターンでは大体腐るし、《喝破》は追放効果付きなので再利用を許してくれません。もたもたしているうちに《ミレックス》で終わらされてしまいます。
正直事故とプレイングミス以外で勝てるビジョンが見えません。というか実際勝った記憶がないです。諦めましょう。
BO1にあまりいないアーキタイプなのが救い。
世界魂ランプ
こちらのタネが割れていない前提でしか勝ちが拾えませんが、こちらのタネは割れていないので勝てます(暴論)。
《世界魂の憤怒》に《かき消し》を当てて、《死人に口無し》で全部抜いてください。それで勝ちです。みんなそう言ってます。
バント毒性
あまり当たったことがないのとなんやかんやで勝てているので正確な評価ができませんが、高速アグロでありながらクリーチャーをバウンスやフェイズアウトで処理してくるので、構造的には不利だと思います。7マナ立ててから《碑出告と開璃》を撃ちたいけどそんなにのんびりさせてくれない、みたいな。《喉首狙い》の信頼性が落ちるのも痛いです。メタゲーム的に立ち位置がよくないので数を減らしているのがありがたいところ。
黒系ミッドレンジ
雑なまとめ方ですがこれらのデッキにはこちらに致命的に刺さるカードが入っていない(雑に強いタイプのカードばかり)ことが多いので、素直にプランを推し進めていけばなんとかなります。
《死人に口無し》でデッキから《碑出告と開璃》を抜かれてしまうと勝ち筋がほとんどなくなってしまうので、《死人に口無し》を採っていることが予想される相手には予め手札破壊で前方確認するか、一撃でとどめを刺せる形でのキャストを心掛けたいです。
おまけ:BO3について
狙いが単純かつキーカードに頼りすぎているので、デッキ公開制ではまず勝てないでしょう。そしてそれは1本目が取れても2本目以降で対策されてしまうBO3でも同じです。
なのでこのデッキをBO3用にしてサイドボードを作るなら、重いスペルを全部抜いて軽くて強いクロック15枚と入れ替える、アグレッシブサイドボーディングをするのがいいんじゃないかと思っています。一本目でタネが割れたら多分《切り崩し》とかは全部サイドアウトされるでしょうし、《フェアリーの黒幕》や《しつこい負け犬》、もしかすると《漆月魁斗》なんかが役立ちそうです。
おわりに
久々にエスパーフラッシュ以来のいいデッキができてとても満足しています。
控えめに言ってとても気持ちよくなるデッキなので、ぜひ握ってみてください。