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読むだけで麻雀が雑に強くなれる考え方 3 いきなりプロの真似をしてもうまくいかないこれだけの理由

前回は着順や順位点を考慮した戦略の修正についてのお話をしました。

今回はより実戦に即した内容、対戦相手によってどう戦略が変化するかという部分について掘り下げていきます。初心者に対する戦略とプロに対する戦略では、最適な戦略は大きく異なります。

麻雀に均衡戦略は(おそらく)ない

※この節はやや難しい内容ですので、実戦でどうすればいいのかが手っ取り早く知りたいという方はスキップして頂いても構いません。

もっとも、この記事で言いたいのはだいたいこの節の内容に集約されます。

こんな状態のことを考えてみてください。

全員がその戦略を取り続けている限り一定の利益が保障され、なおかつその状態から誰か一人だけが戦略を変えることによって、そのプレイヤーの利益が減少する。

これはつまり、この戦略から誰も戦略を変える意味を持たない(変えると損をする)状態であることを意味します。もしこのような状態があれば、その戦略は麻雀における答えが存在することを意味するように思えます。

ゲーム理論の分野では(あまり厳密な説明ではありませんが)この状態をナッシュ均衡と呼びます。実際に2人零和ゲームではナッシュ均衡点での戦略がそのゲームの解であると信じられています。

ところが、これを4人ゲームに拡張するとだいぶ話が変わってきます。ナッシュ均衡は、誰か一人が戦略を変えることを否定する状態ではあるのですが、それによって得られる利益を他3人の間でどのように分配するかについては言及していません(2人零和ゲームだとそもそも分配の必要がなく、相手の損失=自分の利益、になるので問題なかったのです)。極端な話、プレイヤーA,B,C,Dの4人がナッシュ均衡である戦略の組み合わせを取っていたとして、そこからDだけが戦略を変えてCを全力で支援する戦略を取った場合、おそらくDが大損失を出すのに加えてAとBも損失を出しますし、それが全てCの利益となるのです。これでも戦略を変えたのはDのみで、Dの損失=A+B+Cの利得にはなっています。

これに対抗しようと思ったら、AとBも戦略を修正するしかありません。もちろん完全に勝つことは不可能でしょうが、この状態ではより利益的な収奪的戦略が考えられるでしょう。

ということで、麻雀にはこれをやっていれば勝てる、という戦略はおそらくないものと考えられます。相手3人の戦略に合わせた収奪的な戦略を取り続けていかなければならないのです。

オンライン麻雀向けの収奪的戦略

ここからは実戦に即した具体的な検討になります。一般的なプレイヤーがどのような傾向を持っているかを知り、それを搾取することを考えます。これは対戦しているフィールドによって大きく異なりますので、この内容を適用できる場面とそうでない場面は明確に分けて使うようにしてください。

※以下、初心者~中級者を戦略的に搾取することを考えているため、初心者にはやや厳しい表現が並んでいます。

低~中段位の対局

雀魂では対局相手のステータスからだいたいその人がどの程度の実力であるかを見積もることが容易です。特にいわゆる麻雀覚えたての人~ちょっと慣れてきたぐらいの人がとりあえずやること、やらないことについて考えます。

門前テンパイをリーチしすぎる

自分が初心者だった頃のことを思い出してみてください。

光ったらリーチ、押しがちではなかったですか? というか「リーチしないとあがれるかわからないし、待ちとか難しくてよくわからない」、みたいな感じではなかったですか?

牌で打っている場合だとメンゼン聴牌しても何か(主にリーチボタン)が光ることがないのであまりそのようなことはないのですが、特にオンラインではメンゼン聴牌=即リーチの傾向が顕著です。

これは逆に言うと、誰からもリーチも仕掛けも入っていない状況での放銃率は、かなり低く(特に捨て牌2段目までならほぼゼロだと)見積もってよいことを意味します。これにより、自分が聴牌が取れそうな状況では、普通では切れないような無筋やドラを切ってしまうことが正当化されます(もちろんやりすぎはよくないですが)。

他家リーチに押しすぎる/他家の仕掛けに押しすぎる

これは別に初心者じゃなくても身に沁みてわかる人が多いと思うのですが、中級者以下のだいたいの人は他家のリーチや仕掛けに対して適切に降りられていません。では、そのような相手と打っている時にはどのような変化が起こるでしょうか?

攻める場合と受ける場合で、それぞれ戦略に与える影響を考えます。

受ける場合

ある他家からリーチが入ったとして、自分が押すべきか降りるべきかを考えている状態だとします。

自分以外の2人が適切に対応せずに中途半端な押しを繰り返す場合、他家間での横移動の確率が露骨に上昇します。これによって、ツモやノーテン流局で自分が失点する確率が減少します。自分が一切打ち方を変えなくても、相手の対応が拙いために、失点期待値そのものが減少するのです。結果としてベタオリ時の期待値が通常より高くなるため、かなりベタオリ側にバランスを崩してよいことになります。

同じ理論は対局者のレベルにかかわらず適用できます。他家が押せば押すほど、また押している人数が多いほど、横移動の確率が上がるため、オリた時の期待値は上がるのが普通です。明らかに振りそうな牌を連打しているプレイヤーを見かけたら、「放銃はその人に任せて自分はさっと身を引く」と考えておくのが無難です。

このように、他家の動向が降りた時の期待値に大きく響くため、一般論としてそもそもそれほどレベルの高くない卓においては適切に押すこと自体が難しいです。打点要素(ドラ、一色手など)がほぼ全否定されている、自分の手が簡単に聴牌できそうでかつ打点も高い、など相当の要素が揃わないと厳しいと思っておいてください。

攻める場合

感情的にならないでください。暴牌を繰り返すプレイヤーのせいでどんな理不尽な展開になろうと、「こいつはどうせなんでも打つから聴牌即リーチしてやろう」と思ってはいけません。相手が降りるのが下手だとわかっているとそのような戦略の調整は有効そうに思えますが、特にネット麻雀のようにラス回避が重要なルールでははっきりと間違いになります。

そもそも、一般的にリーチをかけた人にとって最も喜ばしい展開は、他の3人が全く抵抗の意思を見せずに降りることです。リーチがかかったら丁寧に降りるべきである、という受ける側の一般論と真っ向から対立しそうな考え方ですが、奇妙なことにこれらは両立します。

もしあなたのリーチに対して適切に押してくるプレイヤーが1人いた場合、その押しは少なくともそのプレイヤーの期待値にとってはプラスの影響を与えます。それがリーチをかけたあなたの期待値にどう響くかは状況次第なので断言はできないのですが、明確に言えるのは、あなたの期待値の分散だけは大きく上昇するということです。着順期待値に直した時にトップとラスの確率が同時に同程度上昇するのは、あまり良いこととは言えませんね(もちろんトップ率が重要なルールであればこれは良い影響になりますが)。

中~高段位の対局

次に、ある程度段位が上がってくる(レベルが保証されてくる)とどのような変化が出てくるかを見ていきます。

低段位から何が変わるか

初心者を脱出した打ち手を統計情報で分類すると、大きく以下の2通りに分かれます。

  1. 和了率が大きく上がる
  2. 和了率はそのまま~微増で、放銃率が大きく下がる

1.のタイプは攻撃型で、牌効率は少なくとも理解できているはずです。このタイプの場合も放銃率はある程度低下しますが、それは単に和了率が上がった反動であり守備面での変化があまりないケースも含まれます。

2.のタイプは守備型で、余計な放銃をしない、という点に重きを置いた結果です。上に書いた対初心者向けのルールを順守した結果ともいえます。

これらの相手は全く異なる傾向を持つため、対応を変える必要があります。レベルが上がるにつれて個別の対応は難しくなっていきます。以下に記載するのはその一例ですが、相手を極めて絞った話になるので、安易に使うと危険な戦略でもあります。

1.のタイプ:守備不全に陥りがちである

このタイプは攻めっ気が強いので、1対1で戦おうとすると火が付いて手が付けられない状態になりがちです。そこで、疑似的に1対2、もしくは1対3の状況を作り出します。目をつけている相手に対して、手が十分整っていて勝負になりそうなプレイヤーが欲しそうな牌を鳴かせるなどして支援する、ということです。

仕掛けるタイプか門前型かにもよるのですが、聴牌したらあとは全部押す、のようなスタンスを取っていると、本当に危険な牌でも「聴牌しているから」という理由だけで押してしまうプレイヤーは少なくありません。1対1で戦おうとすると、自分の手があまりにもどうしようもない時にこれを咎めることができません。ですが、他の2人のうちどちらかでも勝負になる状態であるならば、これを捕まえる余地が出てきます。

2.のタイプ:他家の動向に敏感すぎる

ベタオリが早いプレイヤーを失点させようとするのは困難です。ですが、本来であれば問題なく押していても良い局面でも降りてしまうということでもあります。それを利用してのブラフの仕掛けが通用するとすれば、それはこのタイプの相手です。

露骨な一色手や雑な役ナシのドラポンなど、脅威度の高い手作りを見せかけておくだけで、自分が全くあがれそうにない時(加点が見込めない時)であっても、相手の加点を防ぐ方法として有効に機能します。

プロの打ち方を模倣してもすぐに強くなれない理由

ネットで見られる情報は多くがプロレベルの対局をもとにした情報です。プロvsアマの対局から学ぶことはあるかもしれませんが、プロvsプロを観戦していて、なるほど、こういう局面ではこう打つんだな、と真似しようとしても上手くいかないことがほとんどでしょう。

プロにはプロのバランスがあり、強い人に対して強い戦略をとっています。これは他の打牌選択との兼ね合いで強さを実現しているため、部分的に切り取っても強さを実現できないのです。

相手に適切な割合でのダマテンが存在する

高レベルの対局では、聴牌を打点や他家の動向に応じて適切にダマテンにしてきます。一見動きのない状況でも一定の放銃率が生じることでマイナスの期待値を押し付けられ、その結果ある程度の頻度で降りることが正当化されます。プロ同士の対局で何もないところから突然降りているように見えるのは数学的にはこれが原因です。これを初心者との対局でやってもうまく機能しないのは、上述した通り十分な数のダマテンが存在しない=根本的に降りる必要がない局面が多すぎるためです。

全員が正着を取る前提で、正着に対してのカウンター戦略を取っている

色々な場面について言えることですが、例えば「打点条件の足りていないリーチはしないはずだからこのリーチは最低でも倍満確定である」といった倫理的なものもあれば、「降りていればトップが確定するプレイヤーは押してこない」のような当然の論理まで様々です。その前提が守られるかわからない相手に対して信用して打った時、却って損失を被るシチュエーションというのは結構あります(他家の不必要な押しで自分の着順まで下げられた、みたいな経験は割とあるのではないでしょうか?)。

正着に対するカウンター戦略を収奪しようとしている

前項から続く内容になります。こうなってくると個人同士の高度な読み合いに発展するためあまり深く突っ込むことはしませんが、これが前で述べた「強い人に対して強い戦略」であり、どこの誰とも知れない相手の打ち方をいきなり全信用して打つことは危険だということを認識して頂ければよいと思います。

絶対的正解はない、だからこそ常に相手に合わせた打ち方を

結局のところ、麻雀を全く知らない人がいきなり理論を(人間に可能なレベルで)ガチガチに身に着けても、対戦相手に合わせた戦略の調整ができないと、ランダムな対戦相手に長期的に勝ち越すのは難しいと思います。身の丈に合ったレベルの相手から初めて、レベルの上昇とともに戦略を調整していく必要があるでしょう。これは長い作業になりますが、おそらくゲーム性からして上達には必要な時間的コストになるでしょう。