私信ですが、雀魂で昇段し、雀豪2になりました。特に問題もなくストレートに上がれたと思います。ここまでの連対率は64〜65%です。
私はいい加減に遊んでいるので昨今大人気のMリーガーのような牌譜を使った詳細な分析はできませんが、逆に言うとほとんど難しいことを考えることもなしに金の間までを突破するだけの力はあります(玉の間以降についてはまだこれからの実績なので何とも言えませんが)。
どんなことを考えながら打ってたらこんな感じの戦績になるのかということについて、その一部をご紹介します。
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麻雀が強くなるために何を勉強すべきなのか?
麻雀のテクニックとして勉強すべきと言われていることはとてもたくさんあると思います。以下は私がぱっと思いついたものを(大体ですが)ある規則に従って列挙したものです。どのような規則で並べているか、考えてみてください。
- 捨て牌読み
- 牌効率
- 字牌の切り順
- オリの技術
- 押し引き判断
- ドラ切りの判断
- 仕掛けの判断
- リーチ判断
- 着順操作
- 何切る問題
どうでしょうか? ヒントは、重要な順ではありません。
正解は、実戦において出現頻度が高い順です。牌効率は手牌があって攻めている限り毎回使う考え方ですし、捨て牌は1巡目に麻雀が終わらない限りは必ず発生しますから、捨て牌読みもかなり高頻度で使うことができると思います。一方でリーチ判断はまず門前で聴牌しないことには判断自体が発生しませんし、何切る問題に関しては出題されたその局所的な場面にしか使えないので、再現性は極めて低いです。
ただこれは実際に勝敗に寄与するかどうかについては考慮していないので、単純に上から勉強すべきだ、とはなりません(字牌の切り順がいい例です。配牌に字牌が複数枚あることはそれほど珍しくないですが、それをどの順番で切るかというのは他の要素に比べれば重要ではありませんよね)。
実は、まだこの表には含めていませんが、勝敗への寄与がかなり大きい項目があります。しかもそれをこの表に入れると、あらゆる項目を超えて間違いなく最上位になります。つまり、ありとあらゆる状況において必要になる考え方であるということです。
さて、席に着いて配牌が配られました。この目標を達成するためにすべきことは何でしょうか?
全ての状況に対応できる考え方とは
「この手はリーチすべきか否か」とか、「今出た牌を鳴くべきか」とか、特定の局面における局所的な戦略ではなく、もっと広範に使える、「どんな動きが強いのか」という部分を考えると、あらゆる状況に対応できるようになります。
今回のように点数を稼ぐことを目的とするならば、あなたのすべきことは「その局面ごとに期待値を最大化する選択をすること」です。上にあげた表に含める項目としてなら、「期待値の考慮」。これ以上シンプルな答えはありません。
期待値
局面ごとの期待値とは何でしょう。
たとえば、ある場面において、自分が満貫の聴牌をしていて、これがあがれる確率が40%あるとします(これはめちゃくちゃ強力です)。他の3人は全員ベタオリしています。
この局面の期待値は以下のように計算されます。
\(8000×0.4+3000×0.6=5000\)点
これが期待値です。期待値はある事象が起きる確率とその結果得られる得点の積の総和で表されます(この説明が難しければ、要は掛け算だと思っておいていただければ問題ありません)。5000点のプラスというのは非常に強いです。
次に、牌Aを切ると聴牌が取れるが親のリーチに放銃する確率が30%あり、また牌Bを切ると安全だが聴牌は取れないというケースについて考えます。親のリーチの打点はわかりませんが、仮に12000点としておきましょう。この局面の期待値はこうです。
Aを切った場合:\(-12000×0.3+1500×0.7=-2950\)点
Bを切った場合:\(-1000×1=-1000\)点
どちらもマイナスですが、Bを切った場合の方が期待値が高いため、どうやらBを切るべきなようです。(本当はツモられる可能性とか他家の動きとか、もうちょっと色々な要素を検討すべきなのですが、ここでは単純化のため省略します。結論はあまり変わらないはずです)
この考え方はとても重要です。どんなに上手な人でも、この局面で毎回Aを切っていたら絶対に勝てません。それは単純にこれを繰り返すと、この局面が来る度に平均して1950点を余計に失うことを意味するからです。
自分の期待値を変動させる要因とタイミングについて知る
期待値を変動させる要因は加点と失点の2種類に大別されます。加点期待値を上げるか、失点期待値を下げることができれば、局あたりの期待値は向上します。
まず、加点期待値の内訳は以下の通りです:
- 自分が和了る可能性
- 自分が聴牌で流局する可能性
これは自分の手を見ていればだいたいの目安がわかりますので、比較的見積もるのは簡単ですし、これを大きくしようと思ったら、手を真っ直ぐ進めて受け入れを最大化すれば良いという話になりそうです。牌効率を勉強するのが大切なのはこのためです。
一方で失点期待値の内訳としてはこういったことが考えられます:
- 自分が放銃する可能性
- 他家がツモ和了る可能性
- 自分がノーテンで流局する可能性
こちらはおそらく多くの人が見積もりを苦手とする部分だと思います。ですが、完全にベタオリしている限りは自分が放銃する可能性の影響は排除できるということに注意してください。
そして最後に、期待値がゼロになる要因というのもあります。
- 横移動が起きる可能性
ここでは着順のことを考えない(=順位点がない)ので、これは常にマイナスより良い結果です。
期待値の性質について知っておくべきこと
実戦で急に期待値の計算をしなさいと言われても、多くの人には不可能だと思います。私自身余程追い詰められない限り、細かく数字を計算することはありません。実際に必要なのは数値ではなく選択肢同士の大小関係ですので、それさえわかれば計算は不要だからです。
ある選択が別の選択と比べて明確に優れているか劣っているかを簡単に判断するために有用な、いくつかの性質があります。
相対的に極めて小さい(ゼロに近い)確率の事象は無視できる
先ほど、期待値は掛け算だという話をしました。掛け算の性質として、0に何を掛けても0にしかなりません。それと似て、相手がどんなに大きな数でも、極めて0に近い数を掛ければその結果はほぼ0です。
打牌に際して、加点の期待値と失点の期待値が同時に変化します。自分の手をまっすぐ進める選択肢を取る場合、加点期待値は上がりますが、同時に放銃する可能性のある牌を切ることになりますから、失点期待値も考慮しなければなりません。ですが、放銃の可能性が限りなく0に近いシチュエーションでは、失点の影響は極めて小さいため無視できます。
リーチ宣言も仕掛けも入っていない早い巡目では放銃の可能性が極めて低いため、無視する(=自分の手牌の都合だけで判断して良い)ことができる、と言い換えられます。
また、これの応用として、自分の和了の可能性がほぼ無い時には、(テンパイ流局を考えなければ)加点期待値がほぼゼロであるとして無視できるため、失点期待値を下げるためにより安全な牌を切ってオリるべきだという判断が容易に下せます。
ある事象の確率が上がると、独立でない他の事象の確率は下がる
麻雀に当てはめて平たく言うと、自分の和了率が上がれば、他家の和了率は下がります(そしてそれは多くの場合自分の放銃率が下がることをも意味します)。逆に自分の和了率が下がれば、他家の和了率は上がり、それに伴って自分の放銃率も上がります。
相手に先を越されてアガられ、自分のテンパイを潰された経験はだれしもあると思います。先にアガるということは人の和了率を奪う、ひいては人の期待値を奪うことに繋がります。自分がアガれない場合は常に他家がアガる確率が存在しますから、数少ない例外こそあれど、ほとんど常にアガリは打点以上に偉いです。この事実はとても重要です。
局面ごとの選択を期待値に基づいて判断する
押す局面での選択
押し引きのバランスは明確に押しである局面で、ある選択(打牌選択でも鳴き判断でもいいです)において2択になったとします。安いけどアガりやすい選択か、高いけどアガりにくい選択です。
仮にこれが、後者を選ぶと和了率が半分になるが打点が倍になる、ということだったとしましょう。どちらを選んでも同じでしょうか?
この2つは、加点期待値で言えば(流局やリーチの影響などを考慮しなければ)同じです。ですが、先程自分の和了率が上がれば、他家の和了率は下がるという話をした通り、前者を和了率が上がることで失点期待値が下がります。その他の細かい要素については相対的にゼロに近いため無視することにすると、どうやら前者の選択が優れていると言えそうです。
この話を読んで薄々感付いた方もいらっしゃるかもしれません。この2択は極めてありふれていてしばしば議論の対象になりますが、安くてもアガりやすい方を選択するのが正解になることの方が多いです。
逆に、後者の高いけどアガりにくい(打点を追求する)選択が正解になるのは、加点期待値を上げるという観点で見ると、以下の2パターンになります。
- 打点を追い求めても和了率にあまり響かない場合
- 追い求める打点が高すぎる場合
また一方で、失点期待値がそれほど高くないと見積もれる場合にもこの選択が正解となるケースが存在します。
- 相手がアガる可能性自体がそれほど大きくないと思われる場合
- 相手にアガられた時の失点がそれほど大きくないと思われる場合
言うまでもないですが、見えていない相手の手について考慮するのは困難です。このことからわかるのは、いわゆる高打点型の勝ち組になるのはとても難しいということです。
例外はリーチをするかしないかという判断になった時です。この場合、リーチ宣言をすることで打点が上がると同時に相手の和了率が明確に下がるため、多少の和了率のロスなら賄えるケースが多いです。
降りる局面での選択
では今度は逆に、明確に降りなければならない局面だったとしましょう。
まず大前提として、完全にベタオリしているならば、自分の加点期待値はほぼ0です。繰り返しになりますが、ほぼ0ということは無視しても良いということですので、ここでは失点期待値の大小に従って判断します。
現物があれば、放銃率をゼロにできる=失点期待値のうち自分が放銃する可能性についての部分を完全になくすことができますから、これを選ぶベストなのは言うまでもありません。
そう少なくない局面で、現物かそれに近い牌(2枚切れ字牌やスジ19など)を切り続けるだけで降りられることと思います。問題は安牌がなくなった局面で何を切るかですが、基本的に異なる2牌の優劣をつける局面で、片方がもう片方に比べて放銃した時の失点が極端に大きいというケースは(片方がドラなどでなければ)珍しいので、これも概ね牌の基本的な危険度を把握して、それに従って切ればよいです。放銃時の打点が同じくらいなら、単純に放銃率が低い方が失点期待値は低くなるためです。
ドラを切った方が放銃率が明確に低いので失点期待値が低くなるケースというのもたまに存在します。放銃率がゼロなら当然ドラを切るべきですが、そうでない時にも期待値が低くなると判断できるならドラを切るのが正当化されることもあるのです。
牌の危険度については、最初は単純に「スジ37とワンチャンス19はどっちが安全か」ぐらいの教科書レベルの理解から始めればよいと思います(この手の情報なら調べればすぐに出てくると思うので、確認してみてください)。それから徐々に捨て牌読みを絡めて、こういう状況ならこの牌は他の関係ない牌より数倍危ない、のようにより局所的な要素を掛け合わせて判断する感じにすると良いです。最初からプロがやっているような難しい読みをしようとする必要はありません(テキトーに聞きかじった読みを間違った局面で適用してしまうというミスも考えられるため、これは明確におススメしません)。
押すべきか降りるべきかの選択
ここまでのことが理解できていれば、ただ押していればいい局面で何を選択すべきか、ただ降りていればいい局面で何を選択すべきかはわかると思います。では、押す選択と降りる選択の2択になった時はどうすればよいでしょうか?
この時、2つの選択の間で、加点期待値と失点期待値という2つの要素が同時に変動します。それらの和がより大きい方を選択しなければなりません。
加点期待値も失点期待値も刻一刻と変化し続けるため、この判断の結論は局を通して変動し続けます。一度押すと決めたからといって、全ての牌を押し続けなければいけないわけではありません。ある巡目では押しが正解だったとしても、その次の巡目には降りることが正解になっていることはいくらでもあります。自分が既にリーチしているなどで判断を放棄している場合を除き、ツモ番が回ってくるたびにこの判断をやり直すようにしてください。
打牌こそが期待値マイナスの行為である
相手が聴牌している可能性がある時、打牌するという行為は相手の和了を誘発するだけなので、それ自体が期待値マイナスです。自分がまだ誰にも通っていないある牌を切って聴牌できる時、自分が切る牌自体にかかる期待値を計算に含めなければなりません。
これはどういうことなのか、例をあげて見てみましょう。
Q. 自分がある牌をツモって、和了れる確率30%の2000点のテンパイになったとします。一方で明らかに8000点のテンパイをしている相手がいて、待ちの良さは同等(≒和了率が同じ)だとします。この状況は押すべきでしょうか?
この問題にはある大事な情報が欠けているため、答えを出すことができません。それはこれから切ろうとしている牌の危険度です。
切りたい牌が相手の現物である場合、誰にでもわかる結論ですが明確に押すべきです。厳密に説明するならば、失点期待値のうち、放銃による部分がなく、ノーテン流局による失点の部分が無くなり、ツモられて失点する部分は変化がないので、押すことによって加点期待値(2000×0.3=600点)が生じる一方で失点期待値が減少するためです。
ところがそうではなく、切りたい牌が25%の確率で放銃となる場合、この結論は変わってきます。
まず切った牌が放銃となる場合の失点期待値を出します。
\(-8000×0.25=-2000\)点
そして、自分の加点期待値は打牌が通った上での計算になるので、以下のようになります。
\(2000×(1-0.25)×0.3=450\)点
先程は自分の切る牌が絶対に通る前提だったため、自分の加点期待値は\(2000×0.3=600\)点で良かったのですが、相手が即座にアガる可能性があることでこれが削られてしまうのです。期待値のその他の部分は押しても降りても変わりません(流局については変化しますが話を単純にするためここでは考えないことにします)から、これを押すと降りた場合に比べて1550点損をします。こうなると降りる選択をすべきでしょう。
※ちなみに、切る牌の放銃率がX%だとして、この仮定で押しても降りても期待値が変化しない均衡点を求めると、\(\mathrm{X}\approx{0.07}\)(7%)となります。流局時聴牌が取れることを考慮してもせいぜい10%前後にしかならないでしょう。全然押しちゃいけないんだなというのがわかると思います。
回し打ちはするべきなのか
回し打ちは言うなれば、押し切らず降り切らない選択です。得点期待値も失点期待値も、完全に押した場合よりは低く、完全に降りた場合よりは高くなります。
同じことを繰り返すようですが、回し打ちが肯定されるとしたら、これらの期待値の和が他のどの選択よりも良い時だけです。ここでは複雑な計算は避けますが、一つ言えるのは、回し打ちで打つ牌がそこそこ危険である時は、回し打ちがベストであるケースは少ないということです。押した場合の期待値がプラスならおそらく全部押した方がいいでしょうし、押した場合の期待値がマイナスの場合は大抵回し打ちにしても期待値がゼロを超えないので、完全に降りてしまった方が良いことが多いです。たまに、ストレートに押すとマイナスだが回し打ちにすると放銃する可能性がほぼゼロなためにわずかにプラスに振れる、というケースがあり、それで初めて考慮するくらいです。
実戦でこれらの数字をどうやって把握するのか
放銃した時の点数や和了する確率、放銃する確率などいろいろな数字を例として挙げてきました。実戦でこれらの数字を漠然とでもよいので把握するためにはどうすればよいでしょうか?
トッププロや、皆さんの周りにいる麻雀がめちゃくちゃ強い人は、だいたい経験から体感的にこれらの数字をわかっていると思います(もっとも、正確な数字を把握している人はごく一握りで、実際に聞いても「これくらいじゃない?知らんけど」みたいな答えしか返ってこないと思いますが)。この局面なら相手の打点はこれくらいだろうな、とか、この手はどれくらいアガれそうだな、とかです。まだ麻雀を初めて日も浅く、経験では絶対に追いつけない人がそれに追いつくとしたら、統計を見て学ぶしかありません。
幸い、これらの情報はネットや一部の書籍をあたれば転がっています。だいたいで構わないので、特にリーチ時や仕掛け時の平均打点ぐらいは抑えておくと役に立ちます。
目の前の局所的な情報に惑わされて全体を見失わないこと
ここまでの話に、具体的な局面の例示はおろか、牌の画像1枚すら出てきていないことに気が付かれたでしょうか。これはゲームに勝つためのコンセプトはもっと根源的なことであり、目の前に広がる情報よりはるかに低次元の話であるということです。満貫聴牌なので押すとか、両面聴牌なのでリーチとか、そういった断片的な情報だけで選択するのではなく、総合的に見てそれが勝ちにつながるのかどうかを見て一つ一つの選択を行うべきだと思います。
究極的にはこのルールは別に麻雀に限った話ですらないので、勝利条件が同じである他のゲームにも適用できるはずです。
ここまでの話では着順について考慮しませんでした。次回はここに着順という考え方を導入した時の変化についてのお話です。
【2022.3.16】一部表現を追記・修正しました。