【世界の才能に会いに行く】Jane “Nightbirde” Marczewski – あの辛口審査員が歴代1位に選んだ歌手からのメッセージ

これは、日々をただなんとなく過ごしている人々へ贈るオーディションです。

あの Simon Cowell が最も印象に残っているオーディションとして挙げ、AGT史に永久に名を残したオーディションから、Jane “Nightbirde” Marczewski のご紹介です。彼女が見る人全てに感動と教訓を与えた、心にしみるメッセージをご覧ください。

※サムネイルがネタバレなので、オーディション動画は文章の下部に貼っています。

その前に:Simon Cowell (サイモン・コーウェル) ってどんな人?

Got Talent シリーズおなじみの審査員であり、また番組のプロデューサーでもある彼は、主にテレビ番組の制作に力を置く独自レーベル、SYCO Entertainment の設立者でありプロデューサーです。彼は自らの手掛ける Got Talent シリーズをはじめ様々なオーディション番組で審査員として名を馳せています。

彼の審美眼は確かなものですが、それ以上に彼を有名にしているのがその強烈な辛口批評。特に彼の審査員としての活動の黎明期である American Idol における、侮辱とも取られかねない批評の数々は彼を一躍有名にしました。AGTでも少し引っかかるところがあれば歌っている最中でも中断させて注文を付けることも一度や二度ではなく、今やAGTにおける定番シーンのひとつとして認識されています。

Ansley Burns はオーディション、Judge Cuts と2度にわたり曲を中断させられました。

プロデュースに関わった人/グループ

ここにあげるのはほんの一部です。

  • One Direction – 世界的に成功した男性アイドル歌手グループ。プロデュース
  • Susan Boyle – BGT で「夢やぶれて(レ・ミゼラブル)」を歌い一躍有名に。自身のレーベルで契約
  • Leona Lewis – The X Factor 優勝。自身のレーベルで契約

最近は往年の辛口批評は割と落ち着いてきて穏やかになった印象を受けますが、それでも容赦のない正直なジャッジは多くの歌手志望者にとって今でも高い壁であると認識されています。彼から直接誉め言葉をかけられるというのは、それだけで業界最大級の賛辞に値するのです。

It’s OK.

さて、そんな Simon が待ち受けるAGTの舞台に立った Nightbirde 。オーディション登場時30歳の彼女ですが、自己紹介ではこんなやり取りが。

-What do you do for a living?

-I have not been working for quite a few years. I’ve dealing with cancer.

「仕事は何をしているの?」「ここ数年は働いていません。がんと闘病しています」

実は彼女はがん患者で、つい先日まで闘病生活を送っていたのでした。しかし彼女はそんな自身の置かれた状況に対してまるで疲れたそぶりを見せません。

It’s important that everyone knows I’m so much more than the bad things that happen to me.

「私が置かれている状況よりずっと幸せだってことを知ってもらえてうれしいです」

彼女が披露したのは、”It’s OK” という彼女のここ数年からインスピレーションを得て書かれたオリジナルの曲。内容はぜひ動画をご覧ください。

拍手喝采となった会場、そして Simon が評価の途中で思わず言葉を詰まらせるほどのパフォーマンス。そこで彼女はマイクを手に取ると、歴史に残る一言を紡いだのでした。

You can’t wait until life isn’t hard anymore before you decide to be happy.

笑顔で生きるために、人生が辛くなくなるのを待ってなんかいられないの
―Nightbirde, at AGT auditions

Simon はしかし、そんな彼女にこう伝えます。”I don’t give you a YES.”――「君に”YES”はあげられない」と。会場から落胆の声が上がる中、彼はこう続けました。

I give you something else.

別なものをあげよう。

結果は、ゴールデンブザー。厳しい審判を下すことに定評のある Simon ならではの、何とも憎い演出でした。これにより彼女は準々決勝への進出が決定します。

先に結論から述べてしまうと、Nightbirde はこの先のラウンドで敗退を知る事はありませんでした。

なぜなら、彼女はこの後パフォーマンスを一度も行わなかったからです。

前代未聞の出来事

ゴールデンブザー受賞者が生放送の準々決勝以降を棄権するというのは前代未聞の出来事でした。

視聴者には「健康上の問題」とだけ説明がなされましたが、棄権もやむを得ないものだと理解するにはそれで十分でした。準々決勝の間、彼女とテレビ電話が繋がり、彼女の現在の状態について本人から報告がありました。

Simon は後に、「もし彼女が最後まで出場できる状態だったなら、彼女は優勝してもおかしくなかった」とコメントしています。特に歌手には正直なジャッジを下す Simon ですが、彼女のことをとても高く評価していたことがうかがえます。

オーディションのその後

AGTの放送後、Nightbirde はビルボードの急上昇アーティストで3位にランクインしています。また、彼女のクリスマスソングのリミックスが同年の12月にiTunesの全米ランキングで14位に浮上するなど、AGTを棄権した出場者としては異例とも言える注目を集めました。

彼女が世間の注目を集めている最中も闘病生活は続いていましたが、不運なことに、2022年2月19日、Nightbirde は31歳という若さでこの世を去りました。

遺志

彼女の死後、彼女が生前レコーディングしていた2曲が、家族の手によってシングル盤としてリリースされています。

また、彼女の家族は The Nightbirde Memorial Fund(記念基金) を設立し、がんの研究への支援や、経済的理由で満足な治療を受けられない人たちへの支援活動を行っています。

https://www.nightbirdefoundation.org/

Simon’s Favourite Golden Buzzer 1位にランクイン

AGT Season 17 中、審査員の Simon が歴代のゴールデンブザーの中から特に印象に残っている15組を独自にランキング付けして紹介する特別番組が放映されました。

冒頭でも紹介しましたが、Simon が並みいる過去の出演者たちの中から1位に選んだのが Nightbirde でした。司会の Terry Crews と共に映像を見るその目には涙が。

優勝という栄誉こそ得られなかったものの、彼女の名とそのたった一度のオーディションはAGT史に永久に残るでしょう。